この作品は知人が書いたものです
どこかに残したい、ということで当ブログに掲載することにしました。
続きがあるかは不明。掲載時期も未定です。
ではどうぞ。
私の家には勲八等瑞宝章の賞状がある。父が戦争時に授かった物だ。
それを見る度に、かつて父が話してくれたことを思い出す。
「この日は海の上だった」
海軍であったのだから、そうなのだろうと思い聞いていた。
「海を、泳いでいたんだ」
海?船の上ではないのか。泳いでいたというのは────
凄まじい豪音が鳴り響く。
爆撃を受けたようだ。船内を移動していると既に亡くなっている者も多くいた。
船はバランスを失い始め、あまり猶予は残されていない。
「上官」
不意に声を掛けられ振り返る。
「何をしている。早く船から離れろ。もうすぐ沈むぞ」
「上官…!」
「ん?」
「お、およげないんであります……」
「なに!?」
────海軍で泳げない。水泳の訓練とかはないのか。いや、そもそも泳げない人間が海軍に志願するだろうか、と苦笑するよりもただただ疑問が残ったことを覚えている。
どうにかしなければならない。どうする。辺りに浮輪は見当たらない。浮輪のようなもの…。
とびらだ。
通路をしきる扉を外し、沈みかけている船の先から海へ投げ落とす。高さは十メートルほど。
「いいか。飛び込め。飛び込んだら死ぬ気であれにつかまるんだ」
迷っている暇はない。まず自分が飛び込む。
ザパーーーーッッッ!!
水面から顔を出しとびらを掴む。
「早く飛び込め!」
「は、はい……!」
泳げない者の決死の覚悟だった。
飛び込んだ彼の近くにとびらを運び、無事つかまらせる。
すぐさまとびらを押しながら泳ぎ、船から離れる。早くしなければ船が沈む際の渦に巻き込まれるからだ。
……
…
何分経ったであろうか。
船は沈んでいった。
思った通り、周りで泳いでいた者たちは凄まじい勢いで数十メートルも船側に引き戻された。
その速度にただただ恐怖し、背筋が冷たくなった。
やがて、海面の動きが元に戻り一難を逃れる。
しかし、この後は半ば自然に身を任せることとなる。
できることは泳ぐこと、とにかく泳ぐだけである。
────サメの出現する時間帯は夕方から翌朝にかけてらしい。
サメは自分よりも長く大きい生物を見ると逃げる習性がある。そのためふんどしを長く垂らして泳いだ、と父は言う。
道中、実際にサメは出現したものの襲われた人はいなかったそうだ。